採用のジレンマ

採用のジレンマ

この記事は移転前のブログで2012年8月18日に書いたものです。

囚人のジレンマというものがあります。説明すると長くなるのでWikipediaのリンクを参照。

囚人のジレンマ


新卒採用市場において、環境が変化した現在でも、高度成長・バブル期に発達した「青田買い」と呼ばれる新卒採用方式が変わらないのか。企業は何故方向転換をしないのか。その原因のひとつが囚人のジレンマではないでしょうか?
以前は社内で人手不足+人を育てる余力があったので、とにかく採用してあとから育てるために「青田買い」がされていましたが、続く不況の中でそんな余力はもはや無く、現在はより有能な人を狩るための「青田買い」がなされています。

現在の新卒採用で、A社とB社の採用した人材の平均レベルを(x,y)とすると以下のような感じ。実際の企業数はゴマンとありますが、簡略化のため2つにします。

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新卒生全体のレベルが10だとすると、どちらも早期採用をした場合、良い人材の取り合いになり、平均レベルはだいたい同じになります。自社が卒後採用をした場合、他社に良い人材を取られてしまうため、他社に比べて人材レベルは見劣りしてしまいます。

どちらも卒後採用した場合偏りはありませんが、全体的にレベルアップします。
こう言うと『今の大学の教育は働く上で役に立たない』というありがちな批判が飛んできそうです。

例えば、今現在の大学の教育課程では、1.2年のうちに教養科目を履修し、3.4年で専門課程を履修します。就職活動は3年の中期から約半年~1年、長い人では2年丸々使ってしまう人もいます。その時期に自己分析という名のカルトじみた回顧をし、リクルートスーツを身に纏って企業を練り歩き、愛想笑いを振りまき『御社が第一志望です』と連呼するのと、ある分野での知識を深め、理論と現実の違いをどう埋めるか考えたり、国際的な学会で発表したり、社会人としてその分野で活躍している人と対等な立場とはいかなくても、それに近いものとして切磋琢磨するのと、どっちの方がPDCAを回したり、国際的な感覚を養えたり、打ちのめされたり、考える力がつくのかという話です。

それゆえに、表の右下とそれ以外の「レベル」の定義は違うものです。


一企業というミクロな視点で見れば

他社が早期採用をするならば、自社も早期採用をしないと人材レベルが2になってしまいます。
他社が卒後採用をするならば、自社は早期採用をしてレベル8の人材を採用したほうがいいです。

このようにミクロな視点で見れば、企業の青田買いという採用方法は、自社の人材レベルを上げるために合理的な判断です。

しかし、それは日本的企業の大好きな「社内政治が有能(である可能性が高い)」という人にずぎません。国際的な競争を勝ち抜いていくには「社内政治がうまい」なんていう力の優先順位は遥かに下になるはずです。
働くと目の前の業務に追われ、研究などをじっくりする時間が減ってしまうので、それに時間を費やせる学生のうちに学会などを多く経験させることは、本当に『役に立たない』学びなのでしょうか?

「優秀である」の定義が一昔前に必要とされたものと現在必要とされるものと違うのに、それがごちゃまぜになっているのが現在の採用ではないでしょうか?

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「優秀である」の定義を間違えずに現在の採用のあり方をしているならば、早期採用をする企業はリスクヘッジをしていることになります。他社に有能な人材が流れないように囲い込んで逃がさない。対偶を言えば「早めに囲い込んでおかないと有能な人は自社にこない」ということです。早期採用をしているということは、自社に輝く魅力がないと宣言しているようなものです。

企業はリスクをとって「自社がナンバーワンになりうるオンリーワンの企業だ」と発信していくことに力を入れたほうがいいのではないでしょうか?本当に有能な人ならば、企業から発信された情報をもとに自分の頭で考えて、時期いかんに関わらずやってきます。

また「リスクを取らないことが最大のリスク」ということを、何人もの人が言っています。リスクを取って挑戦しなければ成長もないということです。もちろんリスクを取るべき場合とそうでない場合がありますが、採用というのは企業の数年後から数十年後を決定する重要なものです。これは果たしてリスクを取らなくていい『さほど重要でない』ことなのか、甚だ疑問です。

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このまま新卒一括採用が続くとどうなるでしょうか?おそらく高度成長期やバブルのような時期はもうやってこないでしょう。企業に人を育てる余力が少ないまま学生の青田刈りが必死さを増し、学生のうちに経験できることがどんどん減っていきます。学生のうちに経験できることが経験できず、社会人になっても経験できない。日本のレベルはゆるやかに右肩下がりになるでしょう。一企業というミクロな視点では正しいことをしているのに、日本全体というマクロな視点ではいい効果は生まれません。そのことに早く気付いた企業は既に採用方法を転換しているし、気付いた学生はそういった企業を避けて就職していきます。そういった企業がまた盛り上げて、活躍するようになる。こうやって世代が交代するのも面白くていいかもしれませんね。