「地元」にこもるヤンキーたち

久々に衝撃的な本に出会いました。

地元に根付き、地元から離れないヤンキーたち。
ここでのヤンキーとは、中学時代の仲間とつるみ、新しい交友関係を広げようとせず、半径5km以内で生活が完結する人たちの事を言います。見た目や中身は変遷してきたものの、その根本は変わりません。
そして、ヤンキーは今、マイルドヤンキーに変化して、それぞれの「地元」でコミュニティを作っている。その消費性向に大きなチャンスがあると考え、100人を超えるマイルドヤンキーたちにインタビューをし、現在のヤンキー-地元から離れない若者たち-の実態を調査しようとした本です。

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まず、本書で重要なキーワードとなる「マイルドヤンキー」の特徴を見てみましょう。

・地元志向で、地元から出たがらない
・大きな夢もなく、今の生活が続けば(あわよくば給料が少し増えれば)満足
・何よりも「地元」の友だちを重要視する
・比較的ITに弱い
EXILE浜崎あゆみ等の「ヤンキー性」のあるアーティストが好き
・安定志向

以上のような特性を持っており、すべての生活を半径5km以内で済ますためには(きっと本人たちは意識していないと思いますが)努力を惜しみません。

若者が消費しなくなったと言われる世の中で、他の同世代の人間よりマイルドヤンキーは比較的消費をします。友だちと一緒に乗れる3列ミニバンを購入したいと考えたり、一軒家を購入してようやく一人前という認識があったりと、大きな買い物でも、それが地元で暮らしていくためのものなら厭いません。

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特に驚いたのは、ITへの向き合い方と、狭い生活圏内です。

インタビューを受けたマイルドヤンキーの1人は、渋谷から20分とかからないところに住んでいるのに「いつかは東京に出たい」と言うのです。そんなに近い距離に住んでいても、「地元」と「地元じゃないところ」は明確に分かれていることに驚きを隠せません。しかも、東京に出たいと言う人は少数で、多数派「地元から離れたくないし、結婚しても相手が地元に来てほしい」と考えています。移動ももっぱら車で、電車は使いません。(理由は本書に書かれています)
IT、とりわけSNSの使い方を見てみると、これも内輪の閉じた世界で完結しており、「自分の近況報告を内輪で共有する」ために使っている人が多数でした。いわゆる「バカッター」事件も、起こした本人がマイルドヤンキーに分類されるかは不明ですが、こういった「内輪の繋がりの延長線上のSNS」という使い方が引き起こしたのではないかと言及しています。

私は、中高生時代から地元、隣駅、電車で30分程度離れた駅を生活圏内にしていました。SNSも、まだ見ぬ誰かと知り合うために使い始めました。マイルドヤンキーになれない自分が如実に現れています。

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さて、何が1番衝撃的だったかというと、自分の地元にもまったく同じ「マイルドヤンキー」のコミュニティがあるのです。しかも、そのコミュニティに自分もよく誘われ、(内心嫌々ながら)参加しています。

本書を読みながら、自分が感じていた嫌悪感が具体化されていき、気分が悪くなるほどでした。

その嫌悪感の正体は「半径5kmの閉じた世界で過ごしたい」と考えるマイルドヤンキーたちの考え方が、根本的に受け入れられないことにありました。

例えば、小学生の頃から実に10年以上好きなアーティストがいますが、そのアーティストの話を出来る人が半径5km以内にはいませんでした。中学生の頃は、友人たちとカラオケに行くためだけにORANGE RANGEケツメイシの曲を聴き、友人たちとの付き合いのためだけにラップの練習をしました。でも、そういった曲は好きになれない。だから、生活圏を半径5kmの外に広げなければなりませんでした。
そうやって外の面白い世界を見てしまうと、地元に閉じこもっているのが、いかにもったいない事なのかと思い知り、ますます「いつメン」の輪に入りづらくなります。

どうして、こんな狭い世界で楽しく過ごせるのか。どうして、もっと面白い世界を見に行かないのか。
きっと、そんなところに嫌悪感を感じていたんだろうと思います。



それらを理解してハッとしたとき、地方公務員もまた、マイルドヤンキーと根深く関わっていることに気付いたのです……。